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東京地方裁判所 昭和62年(ワ)5702号 判決 1989年2月28日

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告織田邦男は別紙物件目録記載一の土地上に存するブロック塀(別紙図面に於てイロハニホヘトチリヌイの各点を順次直線で結んだ部分)を撤去せよ。

2  被告は原告に対し金三〇万円を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1(一)  原告は、別紙物件目録三記載の土地上に建物を所有し、家族(妻真山泰子、長女真山典子、長男真山昌)四人で同所に居住している。

(二)  被告は、別紙物件目録一記載の土地(以下「被告土地」という。)及び同土地上の建物を各所有し、同所に居住している。

(三)  金子芳江(以下「金子」という。)及び中澤なおみは、別紙物件目録二記載の土地及び同土地上の建物をそれぞれ各自持分二分の一宛共有し、金子は同所に居住している。

(四)  右三筆の土地及び各土地上の建物の位置関係及び形状は別紙図面のとおりである。

2  別紙物件目録記載一の土地と二及び三の各土地の境界は、別紙図面A点とB点を直線で結んだものである。これを中心線として、その両側に水平距離二メートルの範囲の土地(別紙図面の斜線部分、以下「本件道路」という。)は建築基準法第四二条第二項の規定に基づく道路の指定がなされたものである。

3  被告は、昭和六二年三月ころ、本件道路上である別紙図面のイロハニホヘトチリヌイの各点を順次結んだ土地上にブロック塀(以下「本件ブロック塀」という。)を設置した。

4  原告が所有、居住する建物から公道に至るには、本件道路を通る以外になく、原告及びその家族等は原告所有の建物を昭和四四年一二月二五日に新築して同建物に入居して以来、本件道路を通路として使用してきたものである。

本件ブロック塀は、右通行を妨害している。

5  被告の右行為により、原告は単にその通行の自由を侵害されているだけでなく、金三〇万相当の精神的苦痛を受けている。

よって、原告は、被告が本件道路の通行の自由の侵害しているので、被告に対して本件ブロック塀の撤去、精神的損害の賠償金として金三〇万円及びこれに対する昭和六二年五月三日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否及び主張

1  請求原因1の事実中、(二)の事実は認め、その余の事実は不知。

2  同2の事実は認める。

3  同3の事実は認める。

4  同4の事実は否認する。

5  同5の事実は否認する。

6  建築基準法四二条二項に定める指定がなされた道路について、これを通行することができる利益は、公法上の行為である右指定によって反射的に受ける利益にすぎず右指定がなされていることを理由として、原告が被告に対して、本件ブロック塀の撤去及び損害賠償を求めうる権利を取得するものではない。

三  抗弁

本件道路について、建築基準法四二条二項に定める指定がなされることによって、通行の利益が生じるのは原告のみである。ところが、原告は原告建物の敷地から、本件二項道路によらずとも公道に至ることができるものである。このような場合、本件道路についてなされた前記指定は違法、無効である。

四  抗弁に対する認否

抗弁は否認する。

第三  証拠<省略>

理由

一  請求原因2及び3の各事実は、当事者間に争いがなく、右各事実と<証拠>を総合すると、次の事実が認められる。

1  従前、被告土地上には、被告所有の建物(以下「本件旧建物」という。)が存し、本件ブロック塀の位置よりも、ブロック二枚分ほど北側に寄った位置に、塀(以下「本件旧塀」という。)が設けられていた。

2  昭和六一年七月ころ、被告は本件旧建物を取り壊して建物を新築することとして、建築確認申請手続を経たうえで、昭和六二年二月ころまでに、現在の建物を新築した。

3  そのころ、被告は被告土地の周囲に設けていた塀も、建物の新築にあわせて、全面的に造り替えることとして、被告土地の北側、西側及び南側部分に、ブロック塀を新設する工事に着手した。これに対して、所轄の中野区役所建築課の職員から、被告が右ブロック塀を設置しようとしている位置のうち、被告土地の北側及び南側部分は、建築基準法四二条二項に定める指定がなされた道である旨の指摘がなされ、右部分については同法四四条によって、被告の意図しているブロック塀の設置は許されないものであることが通告された。それにもかかわらず、被告は、当初予定した位置にブロック塀を設置する工事を強行しようとしたため、昭和六二年二月一六日に、中野区長によって右工事の停止を命じられるに至った。

4  そこで、被告は右工事のうち、被告土地の北側部分についてはその続行を停止したが、南側部分については、昭和六二年三月ころ、本件旧塀よりもブロック二枚分ほど、本件道路上において、その中心線寄りに張り出した位置に、本件ブロック塀の設置を完了させた。

5  現在本件道路の中心線から南側に約三メートルの幅の通路状の土地部分があり、原告建物から公道への通行に現実的な支障は生じていない。

6  中野区建築課においては、本件ブロック塀の取り扱いについて、その後の事態の推移をみまもりつつ、その処理を定める方針をとっているものである。

以上の認定に反する証拠はない。

右認定事実によれば、被告は、本件ブロック塀の設置が建築基準法四四条に違反するものであることを知悉していながら、あえてこれを設置したことは明らかである。

二  しかしながら、建築基準法四二条二項に定める指定がなされている道は、同法第三章に定める道路として、同法四四条一項により、同項但書の場合を除き、建築物を建築し又は敷地造成のための擁壁を築造することが禁じられ、従って専ら一般人の通行のために利用されるということができるけれども、右利用は、前記指定によって反射的に受ける利益であって、右道路を常時通行のため利用している者であっても、私法上の権利を取得したと解することはできないから、その通行が道路の所有者によって妨害された場合には、右妨害によって通行が不能となったにもかかわらず、当該行政庁が何らの措置もとらない挙に出るなどの特段の事情がない限りその妨害の除去につき行政庁の職権の発動を促したり、違反行為の処罰を求めたりすることは格別、直接に所有者を相手どって通行権を主張し、あるいは妨害の排除を求めたりすることは許されないものといわねばならない。

これを本件についてみるに、前記認定事実によれば、本件ブロック塀は建築基準法四四条に違反するものであるところ、所轄の中野区役所は、右違反事実及びその発生経緯を把握して、警告及び工事の停止命令を出すなど一応の措置をとったうえで、現在最終的処理を検討中であって、その間、原告建物からの本件道路の通行に現実的障害はないものであるから、前記特段の事情はないものと認められる。従って、原告が本件道路について建築基準法四二条二項の指定がなされていることを理由として、被告に対して妨害排除及び損害賠償を請求する余地はないものである。

以上のとおりであるから、その余の点について及ぶまでもなく、原告の本訴請求はすべて理由がなく棄却を免れず、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 楠本 新)

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